現在ナゴルノ・カラバフ紛争で使用されている無人機はどんなモノ?それらは先進国の正規軍相手にも有効に使えるの?
これは私の学校の文化祭のオンラインページで私が書いた部分を公開したものです。
まずナゴルノ・カラバフ紛争の非常に簡単な背景について
皆さんはナゴルノ・カラバフ紛争(2020)をご存知でしょうか?ナゴルノ・カラバフ紛争とはトルコに支援されたアゼルバイジャンとナゴルノ・カラバフ共和国及びアルメニア(以下アルメニア勢力とする)の間で2020年9月27日に始まった紛争です。
この戦いは1994年に終結した第一次ナゴルノ・カラバフ戦争以後アゼルバイジャンの土地を占拠し、アゼルバイジャン人を追い出して入植したアルメニア系住民で構成されるナゴルノ・カラバフとその周辺の7つの区をめぐって発生したものです。アゼルバイジャンは領土の奪還と多すぎて社会問題になり続けた70万人以上の難民を元の土地に戻すために、アルメニア勢力側はこの26年間で開墾した自分たちの住処を守るために、互いに文字通り必死に戦闘を行っています。
2020年10月29日現在、戦況はアゼルバイジャン側がイニシアチブを握っているように見えます。現在のところナゴルノ・カラバフの地域でアゼルバイジャンは作戦行動を行っており、もう少しでナゴルノ・カラバフとアルメニア本国をつなぐラチン回廊を制圧できるかもしれない……というところまで来ています。この様な結果が出た理由には、
があります。
国力なども見てみたいですがそれはこの記事の主旨から外れるので表を見るだけにましょう。
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人口 |
1,000万人(2019年:国連人口基金) |
290万人(2019年:国連人口基金) |
472億ドル(2019年:IMF推計値) |
134億米ドル(2019年:IMF推計値) |
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兵力 |
総兵力66,950人(陸軍56,850人、海軍2,200人、空軍7,900人)、準兵力15,000人(ミリタリー・バランス2020) |
総兵力44,800人(陸軍41,850人,空軍/防空軍(統合)1,100人,その他防空軍1,850人),準兵力4,300人+ロシア軍が駐留 |
まあアゼルバイジャンが圧倒的ですね。そして次に無人機について解説します。
無人機の運用
トルコとアゼルバイジャンは歴史的に見ても仲がよく今回はアゼルバイジャンにトルコは多数の無人機を供与しています。また、イスラエル製の無人機も多数購入されています。トルコとアゼルバイジャンは無人機を使用することでアゼルバイジャンにとって高価な第4世代戦闘機の消耗を抑えつつアルメニア側の防空網を破壊することに成功しました。また、それによって空いた防空網の穴を利用し無人機で地上目標を破壊し、地上の様子を監視し続けることによって砲兵の弾着観測射撃を支援しています。
今回、無人機はバイラクタルTB2の様な攻撃機型のものからIAI ハロップやIAI ハーピーなどの自爆無人機まで様々なものが登場しています。そしてこれらを用いてアルメニア側の戦車や装甲車などを100台以上破壊しています。無人機はどうしてこの様な戦果を挙げれたのでしょう?
主な理由は以下の4つでしょう。
からだと思われます。
この内、供与の件はアゼルバイジャンとトルコの関係が良いということでわかると思いますので残りの点について解説していきます。
無人機の特性を十分に活用した防空網制圧方法
確認されている例として以下のようなものがあります。
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まず旧式で低速のAn-2輸送機を人の手で離陸させ敵の方向に進路を決定し操縦桿をベルトなどで固定します。
このように基本的に無人An-2を囮として最新鋭無人機が本命として攻撃する戦術です。
今回の無人機の活躍のインパクトは従来、大国によってより高性能な兵器で行われていた事を無人機さえ手に入れれば中小国でも行えるようになったことが証明されたということです。逆に言えば戦法はそこまで真新しいモノではなく今まででも行われてきたことを無人機の戦術に適合しただけです。例えばIAI ハーピーは従来AGM-88 HARMなどの対レーダーミサイルで行われていた事を低速で行っているだけですし、An-2輸送機の囮もADM-141 TALDという滑空型のドローンが1970年代から1990年代にかけて囮として実戦に投入されています。
アルメニア側の防空網の問題
アルメニア側の防空兵器は基本的に旧ソ連製の古いモノが多く、広大な平原で使用されることを想定され、クラッター処理能力(レーダーの反射波の内、地面や海面からの反射波を取り除き、目標を映す能力)が低く、山がちな地形では低高度での探知能力が不足していました。長距離防空システム「S-300PT」と「S-300PS」は、目標を追跡しミサイルを誘導するためのレーダーでは、低速で飛行する目標を追跡できません。アゼルバイジャン側の無人機は状況によっては100km/hで飛行することもあり、探知が困難だったと思われます。
また、旧式の短距離地対空ミサイルなどはレーダーの探知能力が不十分でバイラクタルTB2を探知できる距離がおそらく約7km、バイラクタルTB2のミサイルの射程距離が8kmなので探知される前に空対地ミサイルを発射することができたのでしょう。
他にもアルメニア側のレーダーがおよそ仰角64°程度までしかカバーしておらずIAI ハロップやIAI ハーピー、イスラエル製のLORA戦域弾道ミサイルなどが防空レーダーが探知できない高高度よりほぼ直角に降下してくるのを探知できなかったことなどが推測されます。
隠蔽不足
アルメニア側は初期の段階では航空機に対しての偽装を全く行っておらず、無人機から丸見えの状態でした。普通の軍隊(や自衛隊など)では森の中に兵器を入れたり、草木や赤外線を遮蔽するカモフラージュネットを掛けたり轍を消したりします。偽装は適切に行うと装備を発見される距離を短くし、生存性を向上させます。しかし、紛争初期にはそのようなことを全く行っていない車両が多く、当然無人機に見つかり多数撃破されました。
上2枚 草木とカモフラージュネットにより偽装された陸上自衛隊の93式近距離地対空誘導発射機
レーダー部以外全て偽装網で隠された陸上自衛隊の81式短距離地対空誘導弾のレーダー
(陸上自衛隊の第13旅団のTwitterhttps://twitter.com/13b_jgsdf/status/1149489424540921856?s=20 と陸上自衛隊Google Photo(リンク切れ)https://picasaweb.google.com/lh/photo/8vbKps62AlXP4HKSiRIzhNMTjNZETYmyPJy0liipFm0 と第6師団ホームページhttps://www.mod.go.jp/gsdf/neae/6d/equipment/81sam.html から引用)
参考にした記事
https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html?m=1 これはアゼルバイジャンやアルメニアの戦果の内、証拠があるものをまとめた英語のサイトのリンクです。
https://tangosix.rs/2020/20/10/analiza-okrsaji-azerbejdzanskih-dronova-i-sistema-pvo-jermenije-koje-su-lekcije-za-srbiju/ アゼルバイジャンの無人機と防空システムについて考察したセルビア語の記事です。この展示で物足りない場合はこれを読むといいです。
なんだ無人機最強じゃん!!日本も有人機なんて買っている場合じゃないよ!!……とはならない?
さて確かに無人機は小国相手には無双状態でしたが、実際のところ先進国の正規軍相手に運用した場合どうなるでしょうか?
まず先進国は基本的に高性能な防空システムや電子戦部隊を保有しています。高性能な防空システムは無人機を先に見つけ、撃墜することができるでしょう。また、防空システムを運用する隊員は教育を十分に受けて適切な偽装を施すでしょう。また、今の所無人機は基本的に遠隔操縦を必要とするものが多く、地上にいる人間が電波を出し操縦する必要があるので電子戦部隊によって遠隔操縦のための電波に対する妨害が行われたり、電波発信源を特定して味方の砲兵に伝えて、発信源を砲撃するなどして操縦が妨害されます。
もう一つ、無人機の操縦は衛星を経由する場合、その衛星の通信容量をとても大きく占有するという問題があります。それを避けるために通信衛星を経由しないでおくと今度は見通し範囲内でしか使えない無人機となります。
では無人機は完全に日本では役立たずでしょうか?そうではないでしょう。大型の無人攻撃機も国境で普段は情報収集や監視を行っておき、戦争が始まった際に真っ先に撃墜される鳴子としての役目も果たせますし、テロリストなど高度な装備を持たない敵には十分有効な装備だと思います。また、やっぱり撃墜されても人が死なないということは案外重要で有人機を投入するには危険すぎる任務などに投入したいときにも必要になるでしょう。現在の先進国の世論は自国兵士の戦死に敏感なのです。
バイラクタルTB2
バイラクタルTB2 バイラクタル社公式ホームページ(https://www.baykarsavunma.com//foto-galeri.html より引用)
バイラクタルTB2は中高度での滞空、ISR(諜報、監視、偵察)が可能なトルコ国産の無人攻撃機です。翼下に精密誘導爆弾、対戦車ミサイル、ロケット弾、小型誘導ミサイルのいずれかが搭載可能です。遠隔操縦の他に完全に自律的なタキシング、離陸、着陸、および巡航を可能としています。ただしこれは戦闘行動(敵味方の識別、優先度付け、攻撃)が自律行動下で可能という意味ではありません。通常は地上基地局により無線通信で制御されています。この通信は半径150km以内の見通し距離内の通信(LOS)で山などに遮られると届かなくなるものです。
以下はバイラクタルTB2のスペックです。
項目 |
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---|---|
通信範囲 |
見通し範囲内 |
全高 |
2.2メートル |
主翼の長さ |
12メートル |
離着陸 |
滑走路を使用(自動) |
巡航-最高速度 |
70-120ノット(約130km/h-約220km/h) |
最大離陸重量 |
650kg |
運用-最大高度 |
18,000フィート-27,000フィート(約5.4km-約8.2km) |
滞空時間 |
最大27時間 |
ペイロード容量 |
150kg |
搭載可能なISR |
交換可能なEO / IR / LDまたはマルチモードAESAレーダー |
ペイロード兵器 |
レーザー誘導爆弾 ×4 対戦車ミサイル ロケット弾など |
長さ |
6.5メートル |
燃料容量 |
300リットル |
使用する燃料 |
ガソリン |
スラストタイプ |
100馬力の内燃機関噴射エンジン |
もっと詳しく知りたい人のためにバイラクタル社のバイラクタルTB2のページのリンクhttps://baykardefence.com/uav-15.html とカタログのリンク(PDF形式のためブラウザによってはダウンロードされるので注意)https://www.baykarsavunma.com/upload/ingilizce/Baykar_catalog_eng.pdf のリンクを置いておきます。
IAI ハーピー
イスラエルのIAI(イスラエル・エアロスペース・インダストリー社)によって開発された徘徊型自爆無人機。基本的には対レーダーシーカーを備えた対レーダー用途で使用されますが、派生型は多目的でIRカメラを搭載しています。
徘徊型無人機とは主に敵防空システムを機能不全に陥らせるか破壊するためのものである。ハーピーは敵防空システムの上空へ接近し敵のレーダーを機体の受動式対レーダーシーカーで探知しレーダーを攻撃する事ができます。
もしも敵がレーダーの使用を停止しハーピーに見つからないようにするとハーピーは攻撃を中止し敵のレーダーが再起動するまで上空を徘徊することで敵にプレッシャーを与え続ける事ができます。敵はレーダーが使用できないと防空システムは目を失った状態となり適切な防空が不可能となるのでその間に友軍機を突破させて活動させることができます。そして、敵がレーダーを再起動させたら再び攻撃を行う事ができます。ハーピーは自爆機(巷ではカミカゼドローンなどと呼ばれる)なので、攻撃する際には敵に機体を突っ込ませることとなります。視点を変えれば対レーダーミサイルに徘徊機能をつけたのがハーピーと言えるかもしれません。
項目 |
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---|---|
通信範囲 |
200km |
滞空時間 |
最大9時間 |
速度 |
最大225ノット |
低RCS |
<0.5m² |
最大高度 |
15,000フィート(約4.5km) |
弾頭 |
16Kg以上(32kg?) |
命中精度(半数必中界?) |
1メートル |